ESSAY
みやげのみやげバナシ 《vol.3 長野編》
この旅、お持ち帰りで。
とある旅行の思い出と、一期一会のお土産たち。
それらを綴ったエッセイ「みやげのみやげバナシ」第3回のお届けです。
かつて群馬で仲居の仕事をしていた、dōzoライターのPEさん。今回は、愛してやまない長野県へ行ってきました。
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長野へ行くと、いつも声を大にして言いたくなる。
「海なし県を、侮るなかれ!」
海を見たいなら、山を見ればいい!
海で泳ぎたいなら、温泉に浸ればいい!
海で釣りしたいなら、果物を狩ればいい!
上記は、海なし県長野を愛する民を代表してわたしが作った三大標語である(いい加減にして)。
仲居をしていたころは群馬にいたのでお隣の長野へは、とてもよく通っていた。
すぐに、長野にしかない山々の景色と、山の恵みからなる食、文化的で美しい街の虜になった。
とはいえ、関西に帰郷してからしばらく、長野とはいわゆる“遠距離恋愛”となり(そもそもわたしの片思いの可能性もある…)、疎遠となってしまっていたのだが、彼との旅行で長野行きが決まり、念願の“長野”との再会に胸が高まる。
海なし県の期待の星、長野へ。
長野といえば、ここに立ち寄らずにはいられない。
ご当地スーパーの王様とも言える「ツルヤ」は、長野を中心に展開するスーパーマーケットだ。
長野県内では、わりとどのエリアでも出会えるが、あまりにここが好きなので、「ツルヤ」を見かけると、「ツルヤ!」と思わず叫んでしまう。それもまた、長野旅行の醍醐味なのである。
店内にずらっと並ぶ、最高レベルの品揃えは圧巻だ。
いつ立ち寄っても、旬の果物で彩られ、青々とした野菜たちが堂々とした振る舞いでそこに並ぶ。
わたしが野菜か果物なら、ツルヤに出荷されたい。そう、切実に思うのだ。
蛍光黄色のエプロンとバンダナをきちんと着こなす店員さん方は、行列を手慣れた手つきで捌いている。その蛍光黄色の派手さといったら、ヒョウ柄を纏う大阪マダムも驚くほどだ。
ここは長野。大阪ではあるまいし、あまり目立つことを望まない(であろう)店員さんたちが眩しいほどの蛍光黄色を堂々と纏っているのは、よっぽど「ツルヤ」に誇りを持っているからだろう。と、やけに感心してしまう。
長野らしい果物を使ったドライフルーツや、お菓子、ジャムなどは、全部「ツルヤ」オリジナルだ。そのラインナップの豊富さに嬉々としてあれもこれもと買ってしまう。
オリジナル商品の端っこに記された「TSURUYA」のロゴをみれば、迷うことなくお買い上げ。百貨店のデパ地下以上に、信用している陳列棚だ。
慣れた様子で「ツルヤ」を楽しむ長野マダムたちを目にして、つい買い物好きのばあちゃんと重ねてしまう。
すっかり足腰が弱くなって、大好きな買い物にあまり行けなくなったばあちゃんを思い浮かべては、あれもこれもとカゴに放り込んだ。
ばあちゃんは、蛍光黄色のエプロン姿の店員さんなんて知らずに、「TSURUYA」のロゴにもお構いなしの様子で「こんないっぱい。そないに買わんでええのに〜」と、嬉しそうに言うんだろうな。
霧ヶ峰に佇む、クヌルプ ヒュッテへ。
今回の長野旅は、実はと言うとこの山小屋を目掛けて。
山奥にひっそりと佇むクヌルプ ヒュッテで、一日を過ごす。
予約の電話で「うちはホテルや旅館ではないので、大したおもてなしはできませんが、よろしいですか。」と不安そうに話していたご主人が、穏やかな振る舞いでわたしたちを迎えてくれた。
厨房から「いらっしゃい。」と顔を出すおばあさまは、先代の奥様だろうか。
通された居間に腰掛けると、すうっと身体の空気が入れ替わり浄化されていくのがわかる。
仲居をしていたころ、お客さまからいただいたあまりにも美しい言葉のことを思い出した。
「こころの洗濯ができました。ありがとう。」
この言葉に、わたしは何度救われたのだろう。
ご主人は、この日の宿泊者がわたしたちだけであること、お風呂が既に沸いていること、食事の案内などを丁寧に説明し、「こんなんですが、ゆっくりしていってください。」と言ってお茶を出したら、また静かに夕食の準備へと戻っていった。諸所から感じる心遣いは、歴とした素晴らしいもてなしだと思う。
この山小屋では、至る所からここを愛する人々の気配が伺える。
お客さんが描き残したという絵や、歴史を感じる古い写真、年季の入った書籍に囲まれた居間は、オレンジ色の電球がダイニングテーブルをぽっと照らす。
そこでいただく名物の手作りのハンバーグは、噂通りの優しい味わいで、ごろんとまんまるなフォルムが愛おしい。
たしかに、この日の宿泊者はわたしたちだけだったが、ここを愛する人々の温もりが詰まった空間は、昔とても好きだった場所のような、とても大切な人に見守られているような、不思議な空気が流れる。
驚くほどゆっくりと流れる時間に体がついていかず、時差ぼけのようになったわたしたちは、19時にはすっかり眠ってしまっていた。
山小屋で、朝食を。
ここは、朝ごはんまで最高だ。
街の老舗のパン屋さんから仕入れたという柔らかめのフランスパンに、ジャムとバターを塗って頬張ると笑みが溢れる。
綺麗に盛り付けられたフルーツをジュワッとかじるのは、どうしてこんなに幸せなんだろう。
たった二人、誰にも邪魔されることなく山小屋でいただく朝食は、ティファニーで朝食を食べるよりずっと魅力的だ。小鳥が「ぼくにも分けて。」とでも言うように鳴らすBGMは、幸福な朝食の時間をさらに彩るスパイスとなる。
お腹いっぱいになって、本でも読もうかと居間に腰掛けると、ふと、本棚にある何冊もの宿帳が目に入る。
時を経たのがわかる分厚い宿帳に記された、それぞれの“クヌルプ ヒュッテ”の記憶。
旅人たちが書き残した感謝の言葉や思い出があまりにも素直で美しく、長い長いラブレターを読んでいるような気持ちになる。
読み進めているうちに、涙ぐんでいたことに気がついて、部屋に戻ろうとしていた彼を慌てて呼び戻した。
わたしたちもここに思い出を記そう。
そう言いながら、彼に筆を渡してみる。
その長いラブレターの余白に、
「こころの洗濯ができました。」
そう、綴ることにした。
やっと、この言葉へ恩返しができたような気がした。
長野県のお土産
ツルヤの桃
家族用に買ったが、結局自分で食べてしまった土産。
毎年夏になると欠かさず買っていたツルヤの桃は「うまい・安い・でかい」の三拍子。久しぶりに再会できたツルヤの桃をみて、嬉しさのあまり帰路が電車であることを忘れて即購入。
ラスト一個だったところを、ありがたく持ち帰りました。それはそうと安定の美味しさに家でも唸る。ツルヤってほんとにすごい。
ツルヤのお菓子たち
甘いもの好きな、ばあちゃんへのお土産。
またまたツルヤ仕入れのご当地土産。いつか、買い物が大好きなばあちゃんを連れて「ツルヤ」に行きたい。目を輝かせてカゴいっぱいの買い物をするだろうな。なんて妄想していたら、やたらとばあちゃんへの土産が多くなる。かりんとうやゼリーはばあちゃんの大好物だから。ラスクはよく噛んで。
P.S.じいちゃん、ごめん。二人でどうぞ分けてください。
クヌルプ ヒュッテのポストカード
自分用の山小屋土産。
お客さんが描いてくれた絵と、先代が描き残した地図などで作ったというポストカード。優しいタッチの絵柄はどれもこれもかわいい。あれもこれもとお気に入りのものを選んで持ち帰り、デスクの上に飾れば、忙しい日々でもクヌルプで過ごしたゆったりとした時間をまた、味わえる気がする。
KASHI ICHIのクッキー
家族へのお土産。
クヌルプ ヒュッテのご主人が教えてくれた松本にある最近オープンしたという洋菓子店のクッキー。洋菓子店のお兄さんは子どもの頃、毎年クヌルプ ヒュッテで過ごしていたそう。立派になってるから、行ってあげて、とご主人がおすすめしてくださった。お店でお兄さんに、クヌルプ ヒュッテから来たというと、嬉しそうにいろんな思い出話を聞かせてくれて、二度美味しい土産となった。サクッホロッのバランスがベリーグッドな、わたし好みの逸品(家族より食べていた)。
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久しぶりの長野行きだったが、念願の山小屋泊ができたのでいつも通り、いや、いつも以上にゆっくりと過ごせた。
都会の生活に少し疲れていた身体が、この旅でまたリセットされた気がする。
故郷でもなければ、住んだこともないが、「ただいま」と言いたくなる場所をなんと言えばいいのだろう。
行けばいつでも、こころが救われて"またがんばろう"と背中を押してくれる場所に名前はあるのだろうか。
わたしにとっての長野は、そういうかけがえのない"場所"だ。
「海なし県を侮るなかれ!」
ほら、また大きな声で言っている。